General Theory of Music by Icosahedron 1 を雑に読んでみた
「正二十面体の頂点 12 個に 12 個の音をうまく配置すると、正二十面体が持ってる基本的な性質によって西洋の音階の様々な性質が説明できる」というツイートで話題になった arXiv 論文を雑に読んでみた。
数学、音楽クラスタのみなさま!うちの弟が「正二十面体の頂点12個に12個の音をうまく配置すると、正二十面体が持ってる基本的な性質によって西洋の音階の様々ん性質が説明できる」という論文を発表したのですが、難しすぎてよくわからないので、誰か解説してください…https://t.co/tFHxdZzDwF
— 今井峻介 (@imaishunsuke) 2021年3月21日
友達と一緒に書いた論文が掲載されました。https://t.co/Hom6f45Xey
— 今井悠介 (@Yusui07579536) 2021年3月21日
正二十面体という古代ギリシャ時代から知られている美しい立体によって
西洋で用いられてきた様々な音階が結び付き、そして美しい和音が黃金比で表されるという論文です。
論文は以下の arXiv。
免責事項
- 本ブログの筆者は音楽の専門教育を受けていません(学部の電気電子工学をバックグラウンドに持つ webdev です)
著者は?
- 名大物理・日本ケミコン・ヴュルツブルク音大
- 楽理なのに議論の随所にパリティや群論絡みの話が出てくるのも納得
何を主張している?
- 音階を表現できる正二十面体 "musical icosahedron" を提案(以下 MI と略記)
- 半音階と 1 つの全音音階を表現する MI から出発して、以下を示せる
- MI 上で向かい合う 2 音はトライトーンを形成すること
- 任意の長・短三和音を、1 つの MI 上における黄金三角形で表現できること
- 任意の長・短音階どうしの関係を、2 つの MI を用いた回転・鏡映操作で表現できること
- 長・短音階と教会旋法との関係を、MI における反転操作で表現できること
- 長・短三和音を「MI 上の黄金三角形で表現できる三和音」として一般化
- 長・短音階を「MI 上の回転・鏡映操作によって長・短音階と一致する音階」として一般化
先行研究に対する批判は?
- 無調音楽やその理論は「人工的」で、数学的なもっともらしさは見られない
- その他、具体的な論文を引用した批判はなし
提案理論のキモは?
- MI の各頂点に 12 音を 1 つずつ当てはめる
- 辺を共有して隣接する頂点には「音階」の隣接音を置く、という条件を課す
- 半音階と 1 つの全音音階を表現できる MI は(回転・鏡映対称を除いて)以下の 4 つだけ
- 注:3.2 の最終段落で「Type 1 の各音を半音上げると Type 3 になる」みたいに書かれているが、Type 4 になるのが正しそう
- 注:展開図を使って、隣接の条件を満たすように音を埋めていくと納得できそう
- 長・短三和音を構成する 3 音を MI 上で結ぶと、黄金三角形が現れる
- MI 上の頂点を特定の経路(経路を辺に限定しない)で結ぶと、MI を回転・鏡映操作しても同じ経路が長・短音階になる
- 注:図中の C2 は周期 2 の回転操作、C3 は周期 3 の回転操作、M は鏡映操作
- MI 上で反転操作を行えば長・短音階の経路と教会旋法の経路に類似性が見いだせる
- 注:ここでの「反転操作」は、おそらく原点中心に各点の xyz 座標の符号を反転させることだと思うけれど、まだ Figure 20 の主張を紙の上で再現できていない……。
- 長・短三和音を「MI 上の黄金三角形で表現できる三和音」と一般化
- 長・短三和音は 12×2 通りに対して、MI 上の黄金三角形は 60 通りある
- 例えば C Major の △CEG を周期 5 の回転操作で一般化
- 長・短音階を「MI 上の回転・鏡映操作によって長・短音階の経路と一致する音階」と一般化
- 周期 5 の回転操作と鏡映操作で 10 通りの「音階」が得られる
- 周期 5 の回転操作で一般化するのは、三和音の一般化と共通性がある
- Type 4 の MI を使っても一般化が可能
- 注:図中の C5 は周期 5 の回転操作
議論はある?
- 聴覚的な議論に依拠することなく、純粋に数学的な議論のみで展開できている
- 半音階 & 全音音階からスタートせずに、メシアンモード(移高の限られた旋法)からスタートしたらどうか
- 他の多面体、または他の次元で考えるとどうか
個人的な所感
- 自分が思うに、この論文の話題は
- トライアドやスケール間の対称性
- そもそもトライアドやスケールとは何か
- 前者については、群論で議論を発展させた方が良いかも?
- 単にトライアドやスケール間の対称性が完全正二十面体群と同型なだけ?
- MI 上での対称性を議論するときに、無視されている頂点が一定数あるので、群の位数はもっと落とせるかも?
- 後者については、なかなか判断が難しい
- 三和音や音階の「経路」が必ずしも正二十面体の辺ではない(立体内部も通りうる)のは、そもそも数学的に美しい?(メシアンモードからスタートすれば別の結論が出るのかもしれない)
- 正二十面体という対称性の良い立体を選んだことで、色々な偶然が重なっている?
- トライアドやスケールとは何か?という問いについては、部分群やグラフ理論の議論で発展させるべき?
- 「工学的」にはコード進行の可能性だったり、与えられたコード上で選択できるスケールの可能性を、理論から示唆できる方が「嬉しい」はずなので、楽理って難しい(おわり)
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